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第七話 陰と陽

Auteur: 文月 澪
last update Date de publication: 2025-12-08 08:48:05

 大太刀を納刀し、のんびりと歩いてくる律の胸ぐらを掴んで優斗は食ってかかる。

「おい! 今のなんだよ!? こんな……!!」

 憤りで喉を詰まらせる優斗に律はどうどうと手で制す。

「まぁまぁ、落ち着いて。お腹空かない? もう良い時間だし、お昼にしよう」

 場違いなノリに優斗はがくりと項垂れた。

 そんな優斗を放って律は足取りも軽くリュックの元に駆け寄ると、レジャーシートを広げた。そこに弁当や水筒を出すと手招きする。

「ほら、早く!」

 ルンルンとしながら二段重ねの弁当箱を並べていく。

 しかし、今し方恐ろしい目に遭った場所でのんびり食事する気にはなれず、優斗は口を濁す。

「何もこんな寒い所じゃなくても……、それに虫だって」

 辺りを窺い身を抱く優斗にあっけらかんとした声が上がる。

「えぇ〜、まだ寒い? 虫ももういないよ。しっかり封印したからね。後百年は大丈夫!」

 その言葉に改めて周りに目をやると、確かに冷気は収まり、飛び回っていた虫の姿も消えていて、ただ木々の揺れる音だけが鳴っていた。

 ――封印? こいつ一体……。

 正体不明の少年を、優斗は疑惑の眼差しで観察する。

 突如として現れた転校生。

 冷ややかな声で祝詞を上げる姿と、今にこやかに弁当を広げている姿はちぐはぐで、まるで同一人物とは思えない違和感だった。

 それにあの百足の化け物。

 あいつは優斗だけを狙ってきた。

 律は死ぬと思っていたと言い、実際なんの手助けもする素振りは無かったのだ。

 それを思い出して一気に頭に血が上る。

「そうだ……! なんであの化け物は僕を狙って来たんだよ!? 祝詞を唱えていたのはお前なのに!」

 激昂する優斗にも臆した風もなく律はヘラヘラと笑いながら衝撃を突きつけた。

「ふふふ、だって俺結界張ってたもん。あの百足には俺が見えてなかったって訳」

 そう言ってTシャツをめくり上げると心臓の位置に一枚の札が貼られていた。初めから仕組まれていたという訳だ。

「でも不快な祝詞は聞こえる。だから優斗を食おうと襲いかかったんだよ。いや〜ホント死ななくてよかったよね」

 そんな軽口に背筋が粟立つ。

「それじゃ……、わざと僕を襲わせたのか? なんの説明もせず、あんな化け物に。もし僕が負けていたらどうするつもりだったんだよ……!」

 わなわなと震える優斗を眺めながら、律の目は剣呑に細められる。

「そりゃ君が死ぬだけだよ。でも、生きてるんだから良いじゃない。何がいけないの?」

 その声は低く冷たい。

 優斗は突き放すような言葉を吐く少年に恐怖を覚えた。

 しかし、あまりに理不尽な言動にそれは一転して怒りに変わる。

「てめぇ……!」

 怒りは頂点に達し、思わず刀に手をかけると律は揶揄からかい過ぎたかと両手を上げて降参の意を表す。

「もう、ごめんってば。口が悪いな〜。可愛い顔が台無しだぞ! それより、ほら! ご飯食べよ!」

 さっきの仄暗い表情から一変、また人懐っこい笑顔を浮かべる。

 優斗の頭は混乱した。

 どちらが本当の宮前律なのか判断がつかない。

 律はなおも笑みを湛えて優斗を待っている。

 その間の抜けた顔を見ているとなんだか怒っているのが馬鹿らしくなって、深い溜息を吐いた。頭を抱えながらも重い足取りで弁当の元までやって来た優斗はその中身を見て絶句する。

 一段目はラップに巻かれた大きめのおにぎりが十数個。

 そして、二段目は唐揚げ、コロッケ、海老フライにハンバーグ、生姜焼き等々見事に真っ茶色だ。隅の方に申し訳程度に押し込まれた卵焼きが唯一の彩りか。野菜の影は微塵も見られなかった。

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